第3回北部タイ日系企業訪問に参加して
2014.1.14 ファーイースタン大学 八巻 一三男
2014年1月10日(金)北部タイ日本語日本研究大学コンソーシアム合同事業で第3回北部タイ日系企業訪問を行った。今年訪問した企業は、タイ・サカエレースとタイニチの2社である。8:45にファーイースタン大学を出発、9:30にタイ・サカエレースに到着する。サカエ・レースの日本での創業は1958年で、ランプーンでは2002年に始業した。リバースレースについてデザイン、染色、仕上げまで行っている世界で唯一の企業である。近代におけるレースはルイ14世や、マリー・アントワネット、ポンパドール夫人などフランス貴族が身につけていた衣装に使われていた。産業革命後イギリスがレース用の機械を生産し発展する。サカエレースの所有している機械も100年以上前にイギリスで生産された機械であるという。現在稼動している当時の機械は世界でサカエレースのものだけだという。ワコールや海外企業に商品を卸していて、ランプーンの従業員は343名。その中に、ラオス人17名、中国人2名、日本人5名がいる。企業訪問は創業50周年時に作られたDVDを見た後、工場を見学する。1本のナイロンを縒る[これを撚糸(ねんし)という]作業から始まり、機械で複数のナイロンを編んだり、設定されたデザインのパターン通りに機械が作業をしているのを見る。機械で行う作業と職人による手作業の部分とがある。とても緻密な作業である。輸出部やデザイン部も見学させてもらう。デザイン部ではコンピュータを使って今年の顧客からの要望や売れ筋にあわせたデザインのパターンが考案されていた。工場見学が終わってから質疑応答の時間をとってもらって終了となる。帰りに各人におみやげをいただく。
次に午後13:15にタイニチに到着する。タイニチは海外35カ国にあられや柿の種を製造し輸出している会社である。チェンマイ空港内にPapas & Mamasというテナント店を出している。生産している商品の種類は全部で200を超えるという。こちらでも会社紹介のDVDを見た後で、工場内を見学させてもらう。工場に入る前にマスクをし、作業着を着て、着帽して、靴もビニールでカバーをする。手を洗い消毒を済ませて中に入る。まず目にしたのは餅がソフトクリームのように出てくる機械であった。早川社長はできたてのもちを試食させてくれた。熱々でよく伸びる。このもちがあられとなっていく。次にもちを切り分ける機械やあられを焼く機械を見る。社長は次々とできたてのあられを試食させてくれる。海苔巻きあられの工程では作業員が手で海苔を巻きつけていた。工場見学が終わり会議室で試食をさせてもらいながら、質疑応答をする。タイニチには日本人は社長ともう1名だけである。現在タイニチではタイ人の通訳兼社長秘書を募集しているという。能力試験の合格級は問わないが、細かい話の内容を日本語⇔タイ語に出来る人を探しているということなので、心当たりの卒業生がいたらmarketing@thai-nichi.comまでどうぞ。
Websiteに、タイニチの社長さんのインタビュー記事が載っていましたので、ご参照まで。
http://lifestyle.tenace.co.jp/?monthly=thai-thainichi
タイニチでもお土産をいただく。また帰る前に即時販売をしてもらい新商品など売れ筋の商品をお土産に買って帰った。15:30に会社を出てファーイースタン大学に16:10に到着する。
今回も2社を訪問させてもらうことができた。両社とも中規模な会社である。今回を含め、これまでの企業訪問で分かったことは、大企業でない限り日本語通訳職は必要ないということである。これは日本語通訳が不必要なのではなく、通訳だけをする仕事はないということである。他の部署にいながら通訳もする会社がほとんどである。さらにタイで操業している企業の多くは日本だけではなく海外企業との取引も多い。その場合の使用言語は英語となる。従って輸出入やマーケティング、渉外など取引先や顧客と接する部門では英語が使われる。サカエレースでは以前は社内で従業員が日本語を学んでいたが、今はやめてしまった。中小企業では通訳できる人材は、もちろんいるに越したことはないが通訳職ではなく、日本語学科を卒業しても他の仕事をしながら必要なときに通訳も求められるというのが多いようである。タイには年間100社を超える日本企業が進出しているが、そのほとんどが中小企業であることを考えると、この傾向は今後も増えていくだろう。われわれ教員が学生を指導する際には、日本企業では英語も必要であることも伝えるべきであろう。
もう一点は、日本の企業に就職するには日本企業の文化風土を知っておいたほうがいいということ。日本式はタイのやり方とは異なる場合もあるが、それには何らかの合理的な理由があり、謙虚に学ぼうとする姿勢が求められる。タイニチの工場を見学していたときにちょうどラジオ体操の時間となり、従業員が一斉にラジオ体操を行っていた。これも仕事にメリハリをつけるための工夫のひとつであろう。
今回の訪問では大学の先生の参加者が少なかったのが残念だった。実際に企業を訪問して説明をしてもらい、工場を見学した後、質疑応答をさせてもらえるような機会はなかなかないので、学生の就職先である企業のニーズを知るためにも、出来る限り多くの先生に参加してもらえたらいいと思う。今回の訪問は前2回の訪問とはまた違う職種の企業の実情を知ることができてとても有意義なものであった。